ー 記事の対象 ー
農福連携技術支援者
障害者への仕事の切り出しにお悩みの方
農作業技術
農水省主催の農福連携技術支援者研修(農業版ジョブコーチ)における「技術」とは、主に次の3つに分けることができます。
☑作業細分化
☑難易度評価
☑作業割当て
農作業を分けて、障害特性を踏まえた難易度を考え、作業を適切に障害者に割当てられれば、一定の質を保てた支援ができるとういうわけです。
▶参考記事:農福連携技術支援者研修卒業生の感想
この記事では農作業技術において最初に学ぶべき「作業細分化」についてお伝えしていきます。
作業細分化
ー ワケルとワカル ー
障害者がわかりやすく作業できるように、作業を分けることを「作業細分化」といいます。つまり、作業細分化の目的は、障害者が作業をおこなう上での難易度を下げることです。
例えば、英語を5文型に分けて学習するのが日本では一般的ですが、英語をわずか5つに分けたからこそわかりやすくなっていますよね。言語学者によっては、英語を百以上の文型に分けていますが、これではかえってわかりにくくなってしまい、一般的とは言い難いです。
農福における作業細分化も同様で、ひとつの作業を3つ程度に分けるのが現実的でしょう。つまり、
ワケルことはワカルこと
なのです。「ワケルとワカル」という方法は重要な視点です。古典になってしまいますが、デカルト『方法序説』はお時間あるときに一読しておいてください。
除草の作業細分化
それでは具体的に作業細分化を考えていきましょう。上の写真のように収穫前のキャベツ畑が現場だとします。知的障害者1名とともに作業します。農家からは農福連携技術支援者(農業版ジョブコーチ)に以下のような指示がありました。
「キャベツのあいだに生えている雑草をとっておいて」
この指示をそのまま障害者にお伝えしても、なかなかうまくいきません。なぜなら、障害者おひとりおひとりのロール(役割)が不明確だからです。つまり、障害者自身がキャベツ畑で何をしてよいかわからないのです。わかりにくかったら、どうしますか?
キャベツ畑の除草作業をわかりやすいように分けます。
これが作業細分化です。さて、皆さんはどのように分けますか?
除草の判断
さて、キャベツ畑の除草を作業細分化するとき、障害者にわかりやすいように分ける姿勢をくずしてはなりません。つまり、障害者がどの作業工程でつまずきやすいのかを推測する必要があるのです。
上の写真はいざこれから除草をする際の視界をイメージしていますが、障害の有無関係なく、何が難しそうですか。
もちろん人によって異なるものの、大概はキャベツと雑草を区別するのが難しいかと思います。
キャベツと雑草の区別なんて簡単だという方は、頭だけで考えておいでですので、機会があれば実際に除草を体験してみてください。キャベツのあいだから雑草が生えていますから、雑草の根元から抜いたり切ったりする際に、どの部分を除草すればよいのかが手探りのことが多いのです。
そこで、まずは農福連携技術支援者が、
「ここを持って草をぬきましょう」
と「判断」の部分を担ってあげましょう。「除草すべき草を判断する」というのは農福連携技術支援者育成研修では「条件数」というものに組み込まれますが、こちらの説明は別の機会に譲ります。
わかりやすくワケル
障害をお持ちの方々に除草すべき草の判断の共有が終わったら、いよいよ作業細分化をしていきます。その際に、作業細分化の目的を忘れてはいけません。何のためにこのような細分化をするかというと、
・障害をお持ちの方々の作業をやりやすくするため
につきます。つまり、作業の難易度を下げるということが目的なわけです。したがって、障害のお持ちの方々のお顔を思い浮かべながら、この作業はあの人に向いているかもとある程度、目星をつけながら作業を細分化していきましょう。例えば、除草の作業細分化でしたら、
1、草をぬく
2、とった草を集めて運ぶ
3、集めた草でマルチする
といった3つの工程に分けたとします。3の草マルチは自然農法や自然栽培でよく好まれるもので、草がマルチシートのロールを担えるように畑に敷く作業のことです。
このように分けた場合、一見単純そうに見える1の「草をぬく」工程においても、農作物をよける必要のある除草なのか、雑草を全て抜いてしまってよい除草なのかで求められる作業の難易度や特性も異なってくる他、軍手で抜くのか、ハサミやカマを用いるのか、あるいは電動の草刈機を使うのかといったツールの違いでも話がだいぶ異なってきます。
2の「とった草を集めて運ぶ」工程は、例えば1で農作物ありの除草が厳しそうな障害をお持ちの方に対して、力仕事が大丈夫でしたら、とった草を集めて運ぶ作業に向いているかもしれないと仮説を立てることができます。ここでも、とった草をそのまま抱いて運ぶのか、それともネコのようなツールを使って運ぶのかといった条件設定をきちんと決めてから、作業細分化をしていきましょう。
3の「集めた草をマルチする」工程も、農作物のありなしで難易度が異なり、作業割当てをする相手も変わってきそうですが、このような工程の場合は作業の意義もチームに共有しておくとよいです。例えば、
「草マルチしてあげると、土がやわらかくなるんですよ」
といったことを共有しておくと、除草全体のやりがいにも繋がってきます。
まとめ
作業細分化の目的は「障害をお持ちの方々にやりやすい仕事をつくる」ということです。
それ故に障害特性はもちろんのこと、その日のチームの状況によっても、行うべき作業細分化は異なってまいります。作業細分化はただ分ければよいというわけではないのです。難易度評価や作業割当てといった他の技法と相互に影響を与え合いながら、移ろっていくものになります。
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